【画像診断不可】CTE(慢性外傷性脳症)という脳の病気はアスリートの身近にあることを知っておこう

脳震盪が命を奪う。
しかも数年、数十年後に。


そうなる可能性があるかもしれない
ということを知っているかどうかで、
持てる選択肢はガラッと変わります。

格闘技をはじめ、ラグビー、アメフト…
激しくコンタクトがあるスポーツに関わっているなら
知っていた方がいいのが【CTE】です。

実は、私もほんの数日前に知ったばかりです。
きっと同じような状況の方は少なくないはずですし、
私以上にこの情報が意味を持つ方だっているはず。
そう思って今筆を執っています。
より多くの方に届くことを願います。

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きっかけはAthleteBodyからの1通のメルマガです。
パワーリフターの信田泰宏さんの
大会優勝にまつわる内容でした。

以前から各種SNSで信田さんのお名前は認知していて、
トップリフターでいらっしゃることは知っていましたが、
気になったのはメルマガ内のこの一文です。

信田さんは脳に障害があることを公表されていて、日常的にたくさんの薬を飲まれています。その中には筋肉をゆるめる薬があって、それがパワーリフティングの成績にどう影響を与えるのか頭を悩ませているのだそうです。

脳の障害?
トップリフターが筋肉を緩める薬を飲んでいる??

全くそのような事態は想像していなかったので
びっくりしたと同時に興味を惹かれました。

どういうことなんだろう?
理解が追い付かないので益々気になります。
同じメルマガの中でこの障害について
コンカッション」という映画も
おすすめされていたので
私はこちらからCTEについて触れることにしました。

このようなアスリートがいる
という事実

私があれこれ語るよりも
まずはこちらの動画を見てもらった方がいいです。

タップして動画を見る

このようなアスリートがいらっしゃることを
知るだけでも大きな衝撃でした。
この感じは
IFBBプロのジェイソン ポストンを知った時以来です。

信田さんは大学までラグビーをされていて
幾度となくタックルを受けて来たと
おっしゃっています。
それが原因でCTEを発症したのです。

動画の中で信田さんは
「競技(パワーリフティング)ができるのはあと2-3年」
とおっしゃっています。

この動画は今から3年ほど前のものなので
今がその3年後に当たるのですが、
今回の優勝記録はその当時から25㎏くらい増えています。

一般的には残された伸びしろが少なくなっていくので
競技レベルが上がれば上がるほど、
パフォーマンスを向上させるのはより難しくなってきます。
その状況で進化し続けていることにも
敬意を表さずにはいられません、
というかシンプルに凄すぎませんか?

タップして動画を見る

更にはご自身の言葉で
「一生治らない。」
というワードも発せられています。
そのことを受容できる強さ、
ここに至るまでの道のりを察すると
ものすごく印象的シーンでした。
間違いなく強い人なんだなと感じます。

あらゆる精神疾患を全て持っているとも
表現されていて、
体と心のコントロールが難しい疾患だとも
おっしゃっています。

少しCTEについても調べてみました。

CTEは昔で言う”パンチドランカー”

パンチドランカー

ボクサーに多く見られるのは
よく知られていることだと思いますが、
激しいコンタクトが起こるシチュエーションでは
誰しもに起こる可能性があることを
理解しておく必要があります。

アメリカンフットボール、
アイスホッケー、
ラグビー、
サッカー、
野球、
剣道などでも症例があるようで、
更には脳震盪を繰り返した兵士にも
CTEは確認されているそうです。
起因は激しく脳が揺さぶられることです。

厄介だと思うのは、
現状だとこの疾患は生きているうちに
確定診断を出すことができないことです。
CTなどの画像を撮っても異常所見が取れないので
確認できる症状からするとアルツハイマーや
パーキンソン病と混同されやすいものだったようです。

ここ最近でやっとCTEに特異的なたんぱく質を
画像に描出することが可能になりつつあるようですが、
まだこれから明らかになることが多い病気なのかも
しれません。

頭部への衝撃が
繰り返されることが原因

微細な損傷を繰り返すことが
後に大きな事態を招くことになります。

例えばスポーツ中に1度の外力で
頭蓋骨が陥没する、
脊髄を大きく損傷するなどの
決定的なダメージを負えば
それ以降のプレー継続は非常に難しいでしょう。

でもそこまでいかない衝撃であったら
どうでしょうか?
多分プレーを続けると思うんですよね。

そのようなシーンが多いスポーツ界隈にいれば、
意識を失ってもすぐに覚醒したり
一瞬クラッとするような場合があっても
日常茶飯事なのでスルーされきたんじゃないかと
思っています。

個人的な印象では、
実際にほんの十数年前まで
今ほど脳震盪に対するケアは
行き届いていなかったと感じます。

脳は頭蓋骨内に浮いている

解剖学的な話を少しだけ。

脳は頭蓋骨の中で三層の膜(硬膜、くも膜、軟膜)に
覆われ、髄液という液体の中に浮いています。

このように膜で何重にも覆い、
液体の中に浮かべることで、
脳への衝撃を和らげています。

ただそれでも全てを防げるわけではなくて
強い衝撃を受けて脳内で出血してしまうことがあります。

例えば”くも膜下出血”は有名な病気ですよね。
文字通りくも膜の内部で出血が起き
脳内圧が上がることで様々な症状を引き起こす病気です。
出血規模が大きいと数時間から1日くらいのスパンで
時間経過と共に症状が現れるので異変に気付けます。
画像を撮れば出血箇所も特定可能です。

CTEはここまでの規模ではない衝撃を繰り返し受けて
微細な脳組織の損傷、出血を繰り返して
徐々にダメージを蓄積する病気だと理解しています。

人間の頭は
強い衝撃を
繰り返し
受けられるようには
できていない

キツツキや野生の羊など生活を営む上で
日常的に強烈な衝撃を頭部に受け続ける種が存在します。

“人間はそれらの動物のようにはできていない。“

紹介されていた映画“コンカッション“の中では
そう紹介されています。

同映画で表現されていた数字を引用すると、
先に紹介したキツツキは木をつつくのに1200G
の衝撃を受けますが脳震盪は起こしません。
かたや人間の脳は60Gで脳震盪を起こします。
アメフトのタックルでの衝撃は100Gにもなり
構造的に許容できる衝撃を超えていると
説明するシーンがあります。

現にアメフトやラグビーでは
スピアタックル、ハイタックルなど
頭頸部損傷リスクの高いプレーは
厳しいペナルティを設け抑制を掛けています。

ただ、スピアリング(頭頂部からのタックル)が
ルール上で禁止されたのは1976年まで遡るのですが、
それ以降も多くの症例を出し続けていたことは
想像に難くありません。

実際にアメフトの元選手や家族が
NFLに対して訴訟を起こし始めるのが
2009年辺りなのでそれまでは
状況が大きく変わることはなかった
のではないかと想像されます。
(2015年にNFLが10億ドル(当時のレートで約1200億円)を選手側に支払うことで和解が成立しています。)
極端な話、ルールで禁止しても
危険タックルが不可能ではないですし、
許容されるタックルの結果地面に頭をぶつけても
傷害リスクは変わりません。

コンカッションの中でも描写されていますが、
ビジネスとしての側面を考えるとまた事情が
変わってくるところもあります。
(もちろんそれが人命に勝ることがあってはならないと
筆者も考えています)

数年、数十年掛けて発症する

更にこの因果関係の立証を困難にしたのが
受傷から発症までのタイムラグです。

引退後、時間を置いて症状が現れれば
何が問題でそうなったのか原因究明は
難しくなります。

ましてや多くの場合、
検査上の異常は確認できません。
それでも深い苦しみの中にいて、
理解を得られず孤独なまま非業な最期を
迎えていた人たちが一人や二人ではないのです。

脳を解剖して
初めて確定診断できる病気

繰り返しになりますが、
この病気は死後初めて確定します。

それは現在の画像技術では
診断を確定するための術がなく、
サンプリングした脳を染色して目視する必要が
あるからです。

現在、CTEに特有なタウタンパクを
映し出す技術開発が進んでおり
処理した画像の実用化が待たれます。

これまでの治療実績から
当たりを付けることができる

それでは全く対処法がないのかというと
そうではなさそうです。

症状の種類や展開に加え、
コリジョンスポーツの経験などの問診から
アルツハイマーやパーキンソン病とは
違う対応を行っているのが現状だと理解しています。

その点においては、
CTEの危険性に声を上げたベネットオマル博士や
CTEを発症した元アスリート、多くのご献体…
たくさんのパイオニア達が築き上げた土台の上に
現在の診断と治療が多くの人生を救っていると感じます。

進行を抑制するための対処ができる

これまでの多くの症例からCTEを
強く疑うことは十分可能であり、
現在現れている症状に対する対症療法が
大きな意味を持つと捉えています。

認知症や様々な精神疾患に対する
薬物療法やカウンセリングが
適応されることがあるようです。
それらを用いて現在のQOL(生活の質)の
水準に保つことが重要です。

こういう病気があると
知っていることが大切

長々と書いてきましたがこの記事で主張したいのは、
決して“コンタクトを伴うスポーツをしない、させない“
ではないことをはっきりと申し添えます。

どんな事象にもリスクとチャンス、
メリットとデメリットは共存しており
正負どちらの効能も有しています。
肝心なのはリスクを理解した上でどう行動するか、
デメリットを最大限排除しながら
いかに恩恵を最大化するかだと考えます。

その上で、特にスポーツの指導を担う方々には
CTEという病気への認知を強く願います。

まだまだ克服には道半ばの疾患だと思うのです。
今日の治療方針も
多くの犠牲者の上に
成り立っているのが現状です。

今後、大好きだったはずのスポーツが原因で
取り返しのつかない病気を抱える悲劇は
避けなければいけません。

スポーツやフィットネスは
本来人生を豊かにしてくれるものであって
人生を脅かす物ではないはずです。

少し話が飛躍しますが、
その点を鑑みるとこのCTEを発見したのが
アメリカ文化から距離を持った
ナイジェリア出身のオマル博士だったことは
大きな意味があるのかもしれません。
NFLの影響力を勘案するアメリカ人なら
口をつぐんでいたかもしれませんから。

決して白黒が付く問題ではないのですが、
“知っている“だけでも違いは生まれます。

日本でも安全で豊かな人生を後押ししてくれる
スポーツがより普及することを願います。

最後にこの記事を書くきっかけをくれた
AthleteBodyさんに感謝申し上げます。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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