【議論】スポーツ動作に負荷を掛けるべきか?
かなり昭和感が漂いますが、色々なスポーツの特訓場面、例えば重たいバットで素振りをしていたり、重たいバスケットボールでシュート練習をしているところをイメージできるでしょうか?足首や手首にウェイトを巻いて走ったり、ボールを蹴ったりといった場面でもいいです。実際私も幼い頃そのような練習をした経験があります。実際に扱う重量より重いので通常の道具に戻した時に楽に感じるメリットはあるかもしれません。ただ、私はそれ以上にデメリットが多いと考えるのでその様な練習には反対の立場です。
その理由を順を追って書きたいと思います。
特異性の原理
トレーニングにはいくつかの原理・原則があります。

その中で今回のテーマに関わる「特異性の原理」を取り上げます。
トレーニングの効果は、行ったトレーニングに必要な要素が選択的に強化されるということです。言い換えれば、野球の練習をすれば野球が上手になり、サッカーの練習をすればサッカーが上手になります。
経験的にも当然ですね。
野球の練習をしてサッカーが上手になることはありません。
それは野球の動きに必要な要素でサッカーの動きに必要な要素を満たすことができないからです。これも競技が違うので至極当然の結果です。
競技の練習からもう一段階階層を下げて基礎的なランニングや筋力トレーニングでも同じことが言えます。
長い距離を速く走ろうとすればその目的を達成できるように全身持久力が高まりますし、筋トレをすれば筋肉がより大きく強くなります。
でも、長い距離をたくさん走っても筋肉を大きくすることはできません。
つまり色々な分野のトレーニングがありますが、それぞれのトレーニングで強化できる体力要素は限られています。走るのであれば目的のペースで走れるように、筋トレであれば扱う重量に押しつぶされないように必要なものが強化されます。
筋トレだけに限って言ってもハーフスクワットでトレーニングを続けるとその可動範囲での力発揮は上手になりますが、フルスクワットでしゃがみ込んだ状態からウェイトを押し上げる動きの強化にはなりません。
負荷を掛けて動いた条件がそのまま効果に反映されます。

この原則に則ると、スポーツが上手になりたければ「より速く・より強く・より効率的に」動けるようにそのスポーツの動きをたくさん繰り返しその競技の動きに求められる要素を高める必要があります。
そこで注意しなければいけないのは、実際の動作に負荷を掛けて強化しようとしないことです。
スポーツそのもののトレーニングと筋力トレーニングがごちゃまぜになりそのような負荷を掛ける場合が多いかと思います。
『筋トレ=重たい負荷を掛けて発揮筋力を大きくする』は多くの方が経験的にも知っていてイメージしやすいロジックです。
それをそのままスポーツのトレーニングに適用しようとすることから起こる誤りと予想しています。
しかし、それはよくありません。動作の速さと出せる力の大きさには以下のような関係があるからです。

速く動こうと思うと発揮できる力は小さくなり、大きな力を出そうとすると動かす速度は遅くなります。
軽い物は必要とされる力が小さくて済むので素早く動かせて、重たい物は大きな力が必要なのでゆっくりとしか動かせません。こちらも多くの方が経験したことがあると思います。
そして、先に述べた特異性の原理は運動の速度にも当てはまります。高速で動かせばそのスピードでの運動が上手になりますし、低速で力強く動くトレーニングを積めばその力発揮が上手になります。
具体的に言うと、
高速:バレーボールやバスケットボールでのジャンプ
いかに素早く自分自身の体重を加速させて地面から跳び上がるか
加速度が高い程ジャンプ高も高くなる
低速:相撲の組み合いやラグビーのスクラム
見た目の動きに素早さは無いが非常に大きな力を出している
ということになります。
少し話は逸れますが、最大筋力が上がると下図のようにグラフが変化し同じ負荷での動作スピードは上がります。これを引き出すことがスポーツのために筋力トレーニングを行う根拠の1つです。

一度、まとめます
ここまで述べたように運動の速度と発揮する力には一方が増加すると他方は減少する反比例の関係にあります。今行っているスポーツが上手になるためにその競技のトレーニングをする場面を想像してみてください。
例えば、サッカーで相手をかわすためのステップワークを改善しているとしましょう。
道具や手足に実際のスポーツ場面で使う以上の負荷が掛かった場合、その負荷に打ち勝つためにより大きな力を発揮する必要があります。大きな力の発揮が必要ということは動くスピードはゆっくりになります。
この状態は欲しい結果に繋がるでしょうか?
相手をかわすにはいかに素早く動くかが重要な要素になります。余計な重りを付けて動くことで素早さの感覚を得る機会を奪っている可能性が大いにあります。
動作を身体が覚えるには2万回繰り返す必要があると言われています(諸説あり、スラムダンクのシュート2万本はここから来ているのか?と思ったりしています)。それだけ時間が掛かるので無駄な時間は取りたくありませんよね。それだけではなく、効率の悪い動き方を学習してしまうリスクもあります。長い間、間違った方法でトレーニングしていて覚えてしまった動きを覚え直すにはそこから2万回が必要になります…先が見えませんね。
重さを変えることのデメリット
もう一つ、道具や手足に重さを課すことのデメリットを上げます。
皆さん慣性という言葉はご存じですよね。物体はその時の状態を保とうとするアレです。
止まっているものは止まり続けようとしますし、動いているものは動き続けようとします。そしてその慣性は重たいほど強く働きます。重たいものを動かしたり、止めたりするのにはより大きな力が必要になります。
重たい物を身体から遠い位置で振り回すのは大変ですよね。できるだけ自分の近くに引き寄せた方が扱いやすいです。
道具の重さを変えると扱いづらくなり扱いやすいポジションで動こうとします。
動かす可動域が小さくなり、フォームが変わります。
その時の筋肉の働き方も変わります。
そのまま動きを繰り返せば、前述した通りの結果になります。
余計な力が掛かり、余計な力発揮が求められるのでケガのリスクも高まりますし、エネルギー効率も悪くなります。肝心な所でエネルギー不足になり兼ねません。頑張り所で力が使えなくなります。


エネルギー効率の話で代表的なのはサラブレッド(競走馬)の脚です。
脚の付け根付近は丸々と筋肉が発達し物凄く大きいのに対し、体から遠ざかり地面に近づくほど細くなります。
先端を軽く、土台(今で言うと股関節付近)の筋肉を強く大きくすることで出したパワーを無駄なく走りに利用できるようになっています。
ここまで、スポーツの動きそのものに負荷を掛けない方がいい理由をいくつか紹介しました。
筋トレは筋トレで基本通りに、走りは走りでより速く・より遠くを目指して取り組むのがシンプルで分かりやすいです。
確かに各競技に必要な体力要素は多岐に渡り存在し、自分自身に何が必要かを分かりその改善を図ることは必要です。それは間違いありません。別々に高めた能力を実際のスポーツ動作の中で統合しきれいに磨き上げていくイメージで取り組んでいただくといいのではないかと考えています。

是非参考にしていただけると嬉しいです。
最後までお読みいただきありがとうございました。
今回はイメージしてもらうことを優先し、力・パワー・筋力などの言葉を学問的に正しくない使い方をしている所が多々あります。ご了承ください。

