【書籍紹介】日本のスポーツ指導は適切なのか⁉エコロジカルアプローチでコーチングを学ぶ
人に何かを伝えたり、教えたりするのって
実はものすごく難しいことだと感じています。
言葉で表現しても伝えたい全ての情報を
カバーできている気がしないからです。
あなたはどう感じますか?
特に運動指導をしていると、
理屈で伝えるよりも
促したい動きを取らないと
完遂が不可能な環境だったり、
促したい動きを取ることにインセンティブが
発生するような環境を設定して
半自動的に動きを習得できるような形を作りたい
と常々フワッと思ってきました。
今回、その考えを整理してズバッと回答してくれる
書籍と出会ったのでご紹介します。
スポーツだけでなくコーチング全般に
興味をお持ちであればかなり面白く読み進められると
思いますので、読んでみてください。
この本の詳しい内容をチェックする
環境を整えれば運動学習は自ずと起こる
コーチの役割はSolution setterではなくPlobrem setter
これが最も大切なことです。
コーチは解決策を与える存在ではなく、
選手が自力で解決策にたどりつけるように
適切に課題設定する存在
この言葉が意味するのはそういうことです。
海外でのコーチングに関する研究では
ここ最近でこの考え方が普及してきていると紹介されています。
一方、日本ではどうでしょうか?
個人的にはまだまだ答えを与える指導が多い印象です。
要素を分解して、
コーチが正しい動きを規定して、
繰り返し練習する。
これが一般的な”練習”のイメージですよね。
面白みに欠ける反復練習こそが上達への道という考え方です。
もちろん運動学習の段階においてこのような方法が
優先されることはもちろんあります。
これらの学習方法を頭から否定するわけではありません。
ただ、実用において注意が必要なのは
「どれだけ実際の動作にその練習を還元できるか」のはずです。
これはスポーツにおいても同じことです。
止まった状態で、相手のプレッシャーもなく、
いい状態で動きを繰り返すことが最善の練習なのか?
ということについてはまだまだ考える余地があります。
ポイントは”自己組織化”
【運動を覚えるために必要なのは、
コーチの説明なのか?選手の経験なのか?】
今回紹介している本にはこんな問いがあります。
この”コーチの説明VS選手の経験”を
”規定的指導VS自己組織化”
”マーチングバンドVS鳥の群れ”
と表現しています。
マーチングバンドのように
全ての動きが指導者によって予めプログラムされていて
正確に再現することを求めるのが”規定的指導”
鳥の群れのように目的地を共有し
等間隔を保って飛ぶシンプルな条件だけを
共有して動くのが”自己組織化”
こんなイメージです。
もちろん目的によってどちらを採用するのかという
最適解は異なるのですが、
スポーツなどある程度不測の事態を織り込んで
動作する必要がある場合は後者の方が引き出しを
多く持てそうですよね。
例に挙げた鳥の群れで説明するなら、
100㎞先の湖に向かうという目的を達成するためには
無限のルートがありますし、
道中様々なアクシデントに見舞われるでしょう。
突風に吹かれたり、外敵に襲われるかもしれません。
そんな中でたった1つの規定的なルートのみで
飛んでいたら1羽も目的地に着けずに全滅…
なんてこともあるかもしれません。
スポーツで言うなら、
一つの解決策しか持っておらず
状況に合わせた調節や判断ができないような状況です。
あまり結果を残せそうにありませんよね。
課題とする動作の改善を図るため、
規定的指導では動作をコーチがイメージする形に
はめていく感じなのですが、
練習での指導段階で今後起きるであろう状況を
全て想定して対策することはまず不可能です。
その組み合わせは無限に存在しますので。
一方で自己組織化は、
点を取るという大きな目的を設定し
時間、空間、相手の有無などの条件を変えて
制約を課すことで選択できる動作を規定します。
その中でどうすれば目的達成が叶うのかを
自ら発見していくことを促すイメージです。
バックハンドを身に付けさせたいなら…

例えばテニスにおいてバックハンド技術を向上させたいとします。
その場合どのように自己組織化を促すかという一例も本の中で示されています。
端的に言うと、
特定の動きにインセンティブを与えて、より多く発生する環境作ります。
バックハンドストロークで打ち返しやすいエリアを大きくするように
センターラインを移動させてバックハンドでの得点を2倍にするのです。
ラケットの握り方、振り方、足の運び方などは一切教えません。
ボールを打ち返すエリアを大きくし得点を倍にして
プレー環境を制約することで学習者自らが課題とする動きを選択し
反復できるように促します。
この中で、コースが甘いボールや厳しいボールに対処することで
多様な条件下でのバックハンドを繰り出すスキルが身に付きます。
この経験がかなり重要です。
ノイズをどう扱うか
単純に見える反復練習も
パスのスピード、パスの軌道、自分の体勢などを
厳密に全く同じ条件で繰り返すことはできません。
言うなればノイズが絶えず発生しています。
それでもシュートを決めるという目的のために
瞬間的な多くの調整を経て動作が遂行されます。
これが一種の自己組織化です。
競技レベルが高い選手でさえも全く同じ動作はしておらず、
動作初期のばらつきは大きいそうです。
ただ、動作終盤に向かうにつれて同じ動作に収束していき
目的を達する動作になっていくとのことです。
面白いですよね。
人間の動きはとても複雑なのでロボットの様に
全く同じ動きを繰り返すことはそもそもできない
という立場から考えていくことが重要かもしれません。
必ず理想の動きからばらつきが発生します。
そのばらつきに対処すること自体が貴重な経験であり
運動学習において重要な情報であるとして、
ロシアの運動生理学者であるニコライ ベルシュタインは
【繰り返しの無い繰り返し】と名付けました。
言葉ではなく制約によって動きを引き出す
制約について少し詳しく分類すると、
・筋力や柔軟性、関節の可動域など個人の能力による制約
・特定の動きを引き出す条件設定や練習に設けるルールによる制約
・芝、土、コンクリート、雨、晴れなどプレー環境による制約
これらをコントロールして運動学習を促すことを目指すのが
今回紹介する本で取り上げているエコロジカルアプローチです。
一方的な伝達ではなく学習者自身の試行錯誤が大前提で、
絶対的な時間が必要な取り組みです。
故に短期的な視点では取り扱いづらいでしょう。
1週間後の試合で成果を上げることはまず無理かと思います。
ただ、多様な条件下での安定的なパフォーマンス発揮や
プレーのバリエーションなどは従来の規定的な運動指導よりも
有意な効果が認められ試合に役立つスキルを高められる方法として
認識されてきています。
このエコロジカルアプローチを効果的に活用するには
常に新しい刺激を与え続け、動きの模索を促すことです。
指導者には目的からブレない範囲で積極的に制約内容を変化させて
実際のパフォーマンス発揮状況に近づけた環境作りが求められます。
この条件を揃えやすいトレーニングとして
学習者のスキル習熟度に合わせた
スモールサイドゲームが推奨されています。
たくさんボールに触れるようにコートを小さくしたり、
扱いやすいように柔らかいボールを使ったり、
ゴールの数や形、チームの人数を変えたり
と言った操作を行い競技の本質的な部分を残しつつ
習得を目指すプレーをたくさん発生させることを
狙ったゲームのことです。
ブラジルが次々と才能豊かなサッカー選手を輩出できるのも
幼少期に行うストリートサッカーの中で無意識のうちに
様々なスモールサイドゲームが発生し、
エコロジカルアプローチに沿った制約を受けてプレーしているから
だとする論文も紹介されています。
現在はそのようなストリートサッカーができるスラム街の減少と
リンクしてサッカータレントの数も減っているらしいです。
トップクラブにはあえてストリート要素や多様なスポーツ環境を
整える所もあるとか。
いかに環境がパフォーマンスに影響するかが分かりやすい事例です。
そんなことがたくさん書いてある面白い本です。
ぜひ手に取って内容をチェックしてみてください。
最後までお読みいただきありがとうございました。
別記事でも運動についての面白かった本を紹介しています。
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